相続を経験したことがない方には馴染みがない言葉であろう「遺留分」について、簡単に説明します。遺言を作成する方で、ご存じない方は是非ご参考ください。
例え話の方が理解しやすいと思いますので、ホームドラマ風の作り話で進めてみましょう。 なお、例え話なので本題ではない家庭裁判所の検認等、細かいルールは無視することにします。
<例題>
幼い頃に父を亡くし、母、兄、弟(=私)の三人で暮らしてきました。父の死後、母は保険のセールスレディとして働きながら、私が中学生の頃に小さいながらも一戸建てを購入し、私たちを育ててくれました。
兄は幼少期から真面目で、地元の国立大学を卒業後、地元の優良企業に勤めています。また、長男としての自覚でしょう、母の面倒をみてくれ、母の晩年は介護で相当大変だったそうです。
一方の私は、思春期にグレてしまい、手の付けられないほどのドラ息子に育ってしまいました。母が学校に呼び出されたこともしばしば。そんな私を母は何とか高校まで卒業させてくれましたが、私は、就職も決めず、母の反対を押し切り上京し、以来、ほとんど帰省することなく、この10年は何の連絡も取っていませんでした。
母が亡くなり、葬儀の後、元気だった頃に書かれた遺言書が発見されました。その遺言書の内容は、「不動産(1千万円相当)及び預金(1千万円)の全財産を長男に相続させる」、というものでした(わかりやすいように相続財産は不動産と預金で全てとします) 。
さて、法定通りであれば兄弟で2分の1ずつ相続するこのケースで、私は何も相続することはできないのでしょうか?
<あなたはどう考えますか?>
この問いに対する答えは、人それぞれにあるように感じます。
親に迷惑をかけてばかりで、大人になってからも何一つしてこなかったのだから当然の結果だ、と答える方もいるでしょうし、一方で、同じ親を持つ子供なんだから、全くのゼロは極端ではないか、と答える方もいそうです。
<遺留分>
これに対して、民法は「遺留分」という概念を定めました。この作り話の場合、法定相続人である私は、法定相続分の半分つまり4分の1=500万円を兄に対して請求することができ、請求を受けた兄は原則応じなければなりません。
こんなドラ息子に相続する必要はないだろう、という意見があるかもしれませんが、「遺留分」が設けられた理由は法定相続人の相続に対する期待を保護するため、とされています。
反対に、相続人である私は、迷惑をかけ続け兄に頼りっぱなしだったのだから何も請求しない、という選択肢を取ることもできます。これを「遺留分の放棄」といいます。相続人の期待を保護するために遺留分を設定しているが、相続人自らがその期待を要しないのであれば妨げる必要もない、ということで筋が通ります。
亡くなった方の子供や親が相続人になる場合は遺留分が発生しますが、兄弟姉妹が相続人になる場合は遺留分は発生しません。その他、細かくルールが定められています。
細かく決められている=決める必要があるから細かく決めている、ということで、相続関係は太古の時代から揉め事の代表選手です。法的にも内容的にもしっかりした遺言書の必要性を感じます。